SSR (ソリッド・ステートリレー)の冷却不良で熱破壊事故が発生します。SSR の故障原因となる温度上昇を計算しました。
SSR のメーカは数社あるがオムロン社が最もよく使用されていて、データシートも豊富にあることからこれを使って計算します。

結論から先にいえば、熱計算は相当面倒で手間がかかり類推の部分も多く、安全率を大きく取るので設計値に確証が持てません。
メーカ標準の放熱器を素直に採用したほうが、無駄な労力が省略できます。

SSR 放熱計算の補足説明です。

SSR の熱損失について

SSR は動作時に半導体素子特有の残電圧やオン抵抗があるため、通電時に大きな電力損失が発生します。

(1) SSR の電力損失
交流用 SSR は、電流の開閉にトライアックを使用しているので、アノード~カソード間に残電圧が約 1.6 ~ 1.8V あります。
負荷電流が流れると、電圧〔V〕× 電流〔A〕の電力損失〔W〕が発生します。

DC 用 SSR は、MOS-FET を使用しています。MOS-FET は素子の ON / OFF をスイッチングするのでなく、ドレイン~ソース間の抵抗変化を利用した素子です。MOS-FET はオン時に約 200mΩ の残抵抗があり、負荷電流が流れると電流〔A〕2 × 残抵抗〔Ω〕の電力損失〔W〕が発生します。
電力損失

(2) 負荷電流と電力損失の関係
電力損失は熱になるので、放熱器(ヒートシンク)の有無や周囲温度によって定格電流に制限がかかります。

【 SSR 電力損失の例】
定格電流
〔A〕
放熱器あり 放熱器あり
40℃ 80℃ 40℃ 80℃
10A 16W 9.6W 6.4W 3.2W
20A 32W 9.6W 6.4W 3.2W
40A 64W 19.2W 9.6W 3.2W
特性図

(3) 放熱器なしの電力密度
SSR の放熱が不十分のため素子が加熱し、SSR が破損することがあります。
W:4.3cm、H:5.8cm、D:2.7 ~ 3.0cm の SSR の表面積は、約 100cm2 です。この素子の電力密度〔℃/cm2〕は、

定格電流  40 ℃使用時の電力密度
10A 0.064 ℃/cm2
20A 0.064 ℃/cm2
40A 0.096 ℃/cm2
電力密度〔℃/cm2〕-温度上昇〔deg〕に換算すると、
0.064 ℃/cm2 ≒ 80deg。0.096 ℃/cm2 ≒ 110deg になります。(Max:110deg まで許容)

放熱器がない状態で、定格電流を流したときの素子の温度上昇〔deg〕は概ね下記の値になります。素子が焼け切れることはありませんが、
IV 線の絶縁物は溶けて短絡事故になります。

定格電流  電力密度 温度上昇
10A 0.16 ℃/cm2   144deg
20A 0.32 ℃/cm2   234deg
40A 0.64 ℃/cm2   280deg

(4) 通過電流 2 乗時間積〔I2t〕
短絡電流によるジュール熱量は「通過電流 2 乗時間積」( I2t )で表します。半導体素子は通過電流 2 乗時間積は、短絡電流の通過電流 2 乗時間積と比べて非常に小さいので、短絡電流はすばやく遮断する必要があります。SSR 素子の短絡電流は交流半サイクル( 10ms )以下と短いため、通常の配線用遮断器では遮断できないことがあります。
短絡電流

同じトライアックを使った電力調整器のカタログには、通過電流 2 乗時間積〔I2t〕の記載はありますが SSR にはありません。しかし、限流ヒューズによる SSR の保護は必要だと思います。SSR の通過電流 2 乗時間積〔I2t〕の値は、カタログデータにないのでメーカに確認をお願いします。
保護ヒューズ

放熱器(ヒートシンク)の設計

(1) ヒートシンクの熱抵抗
熱回路の計算は、電気のオームの計算と同じなので難しくありません。
SSR 内部のトライアックの半導体部(ジャンクション)の定格温度は 150℃です。シリコン系の半導体の定格温度は、150 ℃もしくは 175 ℃です。
この温度以上になると素子が壊れるので、電力損失で生じた熱を熱交換器(放熱器)を使って大気中に放出する必要はあります。
トライアックの内部から大気間に熱が、すんなり流れてくれれば素子は効率よく冷却できるが、熱の通り道には熱流を妨げる熱抵抗が存在します。

熱抵抗には、

熱抵抗
【各種熱抵抗のもろもろ】
定格電流
〔A〕
Rjc
〔℃/W〕
Rcs
〔℃/W〕
放熱器型式 Rsa
〔℃/W〕
合計熱抵抗
〔℃/W〕
10A 2.66 0.4 (N50) 2.80 5.82
20A 1.99 0.4 (N10) 1.63 4.02
40A 0.45 0.4 (N150) 1.38 2.23
【鉄板の面積】
定格電流
〔A〕
鉄板の面積
10A 20cm2
20A 120cm2
40A 300cm2

ヒートシンクの代わりに制御盤の中板(基板) SSR を取り付けた場合、中板のペンキや 1cm のマス目のペンキの厚み(μm )などがあって、
SSR の裏面の金属プレートと中板が密着しないため、更に広い面積が必要になります。
放熱面積

(2) 放熱面積-負荷電流特性
負荷電流によって電力損失が違うため、それに見合った放熱板面積が必要です。
負荷電流〔A〕∝ 電力損失〔W〕∝ 温度上昇〔deg〕は、比例関係にあるため放熱面積-負荷電流特性の傾きは温度に比例します。
特性

(3) ヒートシンクの取付と冷却効果
ヒートシンクは、取付方向や位置によって冷却効果が異なるので、メーカ指定の取り付け方法を遵守します。
熱設計完全入門 実践編 国峰尚樹著|日刊工業新聞より引用
取付方向
取付間隔

(4) 最後に、そんな話しどうでもいい「おまけ」
SSR の三相負荷接続で SSR が線間にある結線と、SSR が相間にある結線では高調波の含有量が違います。超~ヒマなときに計算します。
三相結線

投稿日 2018/03/29 (Thu)
更新日  
 

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