三相誘導電動機は熱動継電器(以下サーマルリレー)を使って、過電流保護や欠相保護をおこないます。
サーマルリレーには、2E 2素子形(標準品)と 2E 3素子形があります。三相誘導電動機の欠相運転時の過電流保護は、2E 3 素子のサーマルリレーが
有利といわれているが、その理由を明確に説明できなかった。
不明確な点は、①三相誘導電動機の欠相時の線電流の大きさ。②三相誘導電動機は、欠相(単相)でなぜ回るのか。
お盆休みで暇なので不明な点を調べてみた。結論を先にいえば、四の五のいわずサーマルリレーは、2E 2素子形(標準品)を使うということです。

熱動継電器の素子数と電動機保護について … の補足説明です。

(1) 三相誘導電動機の欠相電流
三菱電機「電磁開閉器 MS-Nシリーズ技術資料集」 Web ページ(p98)に 4. 三相電動機の欠相事故に対する保護に欠相時の電流の記述があります。
icon URL: http://dl.mitsubishielectric.co.jp/dl/fa/document/catalog/lvsw/sh3539/sh3539f0409.pdf
三菱電機技術資料

(2) 欠相状態の三相誘導電動機等価回路
三相誘導電動機欠相電流の計算は簡単ではない。三相誘導電動機の負荷トルクが小さければ、単相電源でも回転するといわれています。
試験問題に出てくるような等価回路を欠相電流の計算に用いても、ベクトル要素を含んでいないため単相での回転現象を説明できません。
三相誘導電動機が単相でも回転する現象を説明するためには、回路電流を正相分と逆相分のベクトルで考える必要があります。
等価回路



左図の等価回路では、
単相運転の説明ができない。

対称座標法による正相分と逆相の計算

(1) 正相分電流とトルク
正相分電流:$\ I_{a1} = \displaystyle \frac{ V_{a1} }{\Bigl( r_{1} + \displaystyle \frac{ r_{2} }{ s }\Bigr) + j(x_{1}+x_{2})} \ 〔A〕 $
正相分トルク:$\ T_{1} = \displaystyle \frac{ 3V_{a1}^2 \times \Bigl( \displaystyle \frac{ r_{2} }{ s } \Bigr) \times p}{ 4\pi \cdot f \Biggl( \Bigl( \displaystyle \frac{ R_{2} }{ s } + r_{1} \Bigr)^2 + (x_{1}+x_{2})^2 \Biggr)} \ 〔Nm〕 $
等価回路|正相分

(2) 逆相分電流とトルク
逆相分電流:$\ I_{a2} = \displaystyle \frac{ V_{a2} }{\Bigl( r_{1} + \displaystyle \frac{ r_{2} }{ 2-s }\Bigr) + j(x_{1}+x_{2})} \ 〔A〕 $
逆相分トルク:$\ T_{2} = \displaystyle \frac{ 3V_{a1}^2 \times \Bigl( \displaystyle \frac{ r_{2} }{ s } \Bigr) \times p}{ 4\pi \cdot f \Biggl( \Bigl( \displaystyle \frac{ R_{2} }{ 2-s } + r_{1} \Bigr)^2 + (x_{1}+x_{2})^2 \Biggr)} \ 〔Nm〕 $
等価回路|逆相分

(3) 各相の線電流

  • a 相の線電流:Ia = Ia1 + Ia2 0 
  • b 相の線電流:Ib = Ib1 + Ib2 = a2 Ia1 +a Ia2 -Ic 
  • c 相の線電流:Ic = Ic1 + Ic2 = a Ia1 +a2 Ia2
• a = -  1 
2
+ j  √3 
2
• a2 = -  1 
2
- j  √3 
2
欠相状態のイメージ

(4) 零相電流、正相電流、逆相電流を求める (相順: a 相 → b 相 → c 相 … )

• 零相電流 I0  1 
3
( Ia + Ib + Ic ) … Ia は 0 なので零相電流は 0 になる。
• 正相電流 I1  1 
3
( Ia + a Ib + a2 Ic )=  1 
3
( a Ib + a2 Ic )=  a 
3
( 1- a )Ib = +j Ib
√3
• 逆相電流 I2  1 
3
( Ia + a2 Ib + a Ic )=  1 
3
( a2 Ib + a Ic )=  a 
3
( a - 1 )Ib = -j Ib
√3

(5) 零相電圧、正相電圧、逆相電圧を求める (相順: a 相 → b 相 → c 相 … )

• 零相電圧 V0  1 
3
( Va + Vb + Vc ) … Va は 0 なので零相電圧は 0 になる。
• 正相電圧 V1  1 
3
( Va + a Vb + a2 Vc )=  1 
3
( a Vb + a2 Vc )=  a 
3
( 1- a )Vb = +j Vbc
√3
• 逆相電圧 V2  1 
3
( Va + a2 Vb + a Vc )=  1 
3
( a2 Vb + a Vc )=  a 
3
( a - 1 )Vb = -j Vbc
√3

(6) 零相インピーダンス、正相インピーダンス、逆相インピーダンスを求める
• 零相インピーダンス Z0 = 0。

• 正相インピーダンス Z1  V1 
I1
• 逆相インピーダンス Z2  V2 
I2

正相電流も逆相電流も同じ電流( Ib )なので、正相インピーダンスも逆相インピーダンスも直列に接続されていると考えます。
絵に描くと単相電源に正相インピーダンスと逆相インピーダンスが直列になっています。留意する点は、アドミタンス Y が直列に接続されていること。アドミタンスはインピーダンスの逆数なので、アドミタンスが 2 倍になるということは、励磁電流が 2 倍になると同じ意味です。

• 正相電圧 V1 Z1
 Z1 + Z2 
× Vbc
• 逆相電圧 V2 Z2
 Z1 + Z2 
× Vbc

正相回路出力の分母と逆相回路出力の分母がちがいます。
電動機のすべりの程度によっては、正相出力(回転トルク)と逆相出力(ブレーキ)にアンバランスが生じ、単相でも電動機は回転を継続します。
正相回路&逆相回路

(7) この内容は、Pumpkin の勝手な推測です
三相誘導電動機運転中に欠相になったとき、励磁電流は 2 倍になるので負荷電流も 2 倍になるはずです。しかし、三菱電機のサーマルリレーの技術資料も富士電機のサーマルリレーの資料も負荷電流は 1.5 倍と書いています。恐らく正相トルクに対して逆相トルクがブレーキとなって、回転トルク(負荷電流)を抑制しているものと考えられます。(追記:三相電源の励磁回路の相電圧と、単相電源の励磁回路の相電圧が違う。)

三相誘導電動機のすべりが大きくなると指数関数的に回転トルクが減少し電動機は停止します。負荷トルクが単相停動トルクよりも小さい場合は、適当なすべりを維持したまま回転を継続します。三相誘導電動機の抵抗分やリアクタンス分などの細かなデータがあると、単相運転で負荷電流が 1.5 になる理由がわかると思います。現時点では、メーカーのカタログや技術資料からそれを推測することは無理なようです。
誘導電動機特性曲線

I 三相時電流
I 欠相時電流
Is3φ 三相時始動電流
Is1φ 欠相時始動電流
T 三相時トルク
T 欠相時トルク
Tm1φ 欠相時停動トルク
TL 負荷トルク
N 三相運転時回転速度
N1φ: 欠相運転時回転速度

(8) 三相誘導電動機の三角結線( 5.5kW 以上)の欠相事故で、負荷トルクが小さい場合にサーマルリレーで検出できないことがあります。
非常に限定的現象)
非常に狭い限定的な現象のために 2E 3 素子を使用するのはもったいないと思います。負荷トルクが単相停動トルクよりも大きい場合は、
電動機は停止して、始動電流の約 1.5 ~ 2 倍程度の拘束電流が流れるので標準品の 2E 2 素子のサーマルリレーで欠相検出は可能になります。
欠相検出

投稿日 2018/08/13 (Mon.)
更新日  
 

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