大容量変圧器の近傍にインバータユニットを設置した場合、インバータユニットが軽負荷運転時に「うさぎの耳」状のパルス電流が発生することが
知られている。うさぎの耳のパルス電流の発生のメカニズムとその対策について記述します。

インバータユニットの「うさぎの耳」を考える上で必要な情報は、
• 電源変圧器の抵抗値および誘導性リアクタンス
• 変圧器からインバータユニット間の配線インピーダンス
• インバータユニット内の電解コンデンサ容量などの情報

インバータユニットのうさぎの耳の補足説明です。

(1) 変圧器のインピーダンス
変圧器のカタログに「短絡インピーダンス」の値が記載されています。その値は、概略値でかつ範囲が広すぎます。
もう少し詳しい資料は、三菱ノーヒューズ遮断器・漏電遮断器 技術資料集にあります。
icon URL: http://dl.mitsubishielectric.co.jp/dl/fa/document/catalog/lvcb/yn-c-0657/y0657e1609.pdf

【各種変圧器の短絡インピーダンス】
変圧器容量
〔kVA〕
210V 油入 420V 油入 210V モールド 420V モールド
%ZT X/R %ZT X/R %ZT X/R %ZT X/R
20 2.26 0.42 1.50 1.33
30 2.27 0.65 2.20 1.31
50 2.37 0.83 3.60 1.30
75 2.43 1.34 2.35 1.29 3.90 1.63 3.70 1.60
100 2.57 1.54 2.46 1.46 3.20 1.58 3.10 1.66
150 2.61 1.74 2.59 1.60 3.00 1.74 2.80 2.04
200 2.98 2.30 2.66 1.80 3.10 2.20 2.80 1.99
300 2.99 3.06 3.36 2.47 4.30 4.01 4.10 3.91
500 4.04 4.23 4.12 3.91 4.20 4.45 4.20 4.32
750 4.43 5.45 4.43 4.99 5.00 6.00 5.20 6.15
1000 5.31 6.91 4.77 5.66 6.20 7.45 6.00 7.44
1500 5.17 6.55 5.43 6.47 5.70 8.53 5.80 8.50
2000 5.91 7.51 4.82 6.53 7.00 11.01 6.20 10.64

(2) この先は少々難解なので、丁寧に説明していきます。
%ZT は、「短絡インピーダンス」です。その比率を X/R で表しています。例えば、1500kVA 420V の油入変圧器の場合、X/R = 6.47 あります。
小容量の変圧器の X/R が小さいのに対し、大容量の変圧器の X/R は大きな値となっています。
短絡インピーダンス

コイルの説明

$ L=K \Bigl(\displaystyle \frac{ \mu_0 \ \mu_S }{ 4 \ \pi } \Bigr) \displaystyle \frac{( 2 \pi r N )^2} { \ell } \ 〔H〕$

R :コイルの半径〔m〕
l :コイルの長さ〔m〕
N :コイルの巻数
K :長岡係数
μ0 :真空透磁率
μS :鉄心透磁率

「短絡インピーダンス」の説明は、三菱電機ホームページに詳しい説明があります。
変圧器のインピーダンス icon URL: http://fa-faq.mitsubishielectric.co.jp/faq/show/16112?category_id=1909

変圧器の短絡インピーダンスでは「うさぎの耳」を解析できないので、パーセント値をオーム値に変換する必要があります。

オーム値 Z〔Ω〕=  V2 
P
×% Z ×10-2 〔Ω〕
V: 電圧〔V〕
P: 基準容量〔VA〕 通常1000kVA
%Z: パーセントインピーダンス
【モールド変圧器のオーム換算インピーダンス】
電圧 210〔V〕 420〔V〕
基準容量 tan-1
〔rad〕
Z〔mΩ〕 R〔mΩ〕 X〔mΩ〕 tan-1
〔rad〕
Z〔mΩ〕 R〔mΩ〕 X〔mΩ〕
20 53.10 0.66 0.40 0.53
30 52.60 0.97 0.59 0.77
50 52.40 1.59 0.97 1.26
75 58.50 1.72 0.90 1.47 58.00 6.53 3.46 5.53
100 57.70 1.41 0.75 1.19 58.90 5.47 2.82 4.68
150 60.10 1.32 0.66 1.15 63.90 4.94 2.17 4.44
200 65.60 1.37 0.57 1.24 63.30 4.94 2.22 4.41
300 76.00 1.90 0.46 1.84 75.70 7.23 1.79 7.01
500 77.30 1.85 0.41 1.81 77.00 7.41 1.67 7.22
750 80.50 2.21 0.36 2.17 80.80 9.17 1.47 9.05
1000 82.40 2.73 0.36 2.71 82.30 10.58 1.41 10.49
1500 83.30 2.51 0.29 2.50 83.30 10.23 1.20 10.16
2000 84.80 3.09 0.28 3.07 84.60 10.94 1.02 10.89

(3) インバータユニット内の電解コンデンサ
10,000〔μF〕以上の電解コンデンサが 2 ~ 4 個入っている。
電解コンデンサ

うさぎの耳とフーリエ変換

(1) 世の中にすごく頭のいい人がいて、うさぎの耳をフーリエ解析した人がいます。
高調波所論 [REPORT 5-1 ] フーリエ級数による整流回路の検証
icon http://www.actv.zaq.ne.jp/gaagc102/report5-1.htm

このホームページの資料を引用掲載します。
うさぎの耳
高調波

基本波 :100%
第 3 調波 : 21.4%
第 5 調波 : 54.3%
第 7 調波 : 63.0%
第 9 調波 : 24.3%
第 11 調波 : 6.2%
第 13 調波 : 8.6%

(2) うさぎの耳が発生する理由
インバーターユニットが軽負荷運転をするときにインバータの 1 次電流はパルス状になります。
インバータユニットが軽負荷運運転の場合、負荷電流供給はコンデンサに蓄積された電位だけで十分です。このためコンデンサ放電の間は、電源からの電流供給が一時的にゼロになり電流波形はパルス状になります。

三相電源を全波整流しているので、黒相がマイナスのとき(破線で示した領域)黒相のマイナス分の電流を供給できるのは赤相のみです。
(赤相>青相)

インバータユニットの負荷が大きくなると、インバーターユニットの 1 次側電流は連続した波形になり、うさぎの耳は発生しません。
うさぎの耳

(3) うさぎの耳の高調波から力率改善のコンデンサを守る。
基本的には 450kVA インバータユニットから高調波の流出を防ぐため、インバータの電源側に AC リアクトルを取り付けます。それでもコンデンサの
焼損が防ぎきれない場合は、チューラーユニットの低負荷時の力率改善をあきらめるかだと思います。

投稿日 2018/10/19 (Fri.)
更新日  
 

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