交流電圧を直流電圧に変換する整流回路は、ダイオードとコンデンサを組み合わせた回路です。
回路がシンプルなため整流回路の設計は簡単そうに見えるが、実は分からないことや手計算で済まない難しい一面があります。
たとえば、整流回路用変圧器を選定するときに直流負荷容量〔W〕と同程度の変圧器容量〔VA〕を選択してよいかというとそうでもない。
整流回路の方式によっては、数倍の容量を見積もらなければならないものもあります。

インバータユニットの高調波対策で DC リアクトルを取り付けます。高調波は抑制できるが DC リアクトル(チョークコイル)には、臨界特性というものがあって、高調波成分が消失した分、チョークコイル通過後の直流電圧が低下する特性を持っています。
整流回路の直流電圧は、交流電圧の実効値の√2 倍ではなく、電卓を使って手計算できるレベルをはるかに超えた難しい面があります。

整流回路を設計するときに電卓や Excel を使って計算できない領域の設計は、回路シミュレータを使って設計します。
併せて、回路シミュレータの使用例も紹介します。

このサイトで『倍電圧整流回路』の話題がでました。 回路シミュレータを使えば、回路の電圧や電流を簡単に把握することができます。
コンデンサの電圧波形を目の当たりにすると、難解そうな倍電圧整流器の仕組みも簡単に理解することができます。

整流回路設計の補足説明です。

項目をクリックすれば、該当説明にジャンプします。

主な整流方式の種類

(1) 単相半波整流回路
直流電圧にリップルが多いため制御分野ではあまり使いません。
単相半波整流回路

(2) 単相全波整流回路
単相半波整流回路に比べて直流電圧平均値が高い。
単相全波整流回路

(3) 三相半波整流回路
三相半波整流回路

(4) 三相全波整流回路
三相半波整流回路に比べて直流電圧平均値が高い。
三相全波整流回路

コンデンサ・インプット形整流回路について

(1) コンデンサ・インプット形整流回路
電解コンデンサを付けた簡単な回路で、比較的小容量の平滑回路として用いる。電源インピーダンス RS は、交流電源側の電気抵抗とダイオードの
順方向抵抗で、直流負荷抵抗に比べて小さいので無視できる。放電特性は負荷抵抗に依存するので、負荷電流が大きいと放電曲線は急峻になり
リップル含有率が高くなる。
コンデンサ・インプット形

チョーク・インプット形整流回路について

(1) チョーク・インプット形整流回路
インバータユニットの DC リアクトルもチョーク・コイルの一種。チョーク・コイルに用いる鉄心は、直流磁化しないように鉄心の磁束密度を
小さく設計するので、容量の割には鉄心重量が大きい。チョークコイルで高調波成分をブロックするため、コンデンサ・インプット形整流回路に
比べ、チョークコイル通過後の直流電圧は低い。中大容量の設備に用いる。
チョーク・インプット形

リップル含有率を計算する

脈流電圧には、直流成分に高調波成分がじゅうじょうしているので、チョークコイルの電圧降下を計算するときに直流成分と高調波成分を分けて計算する。

(1) 電卓を片手にて計算する場合 … 高調波成分を平滑にする条件

RL 1
 ω C 
ωL 1
 ω C 
ω :2 ×π×リップル周波数 fR
C :平滑コンデンサ
L :チョークコイルのインダクタンス
RL :負荷抵抗

インダクタンスの臨界値 … チョークコイルが誘導性リアクタンスとして機能する領域で、チョークコイルの電流値(負荷抵抗値)の大きさと関連する。

LC RL
π・fS・( N2 -1 )
〔H〕
fS :交流電源周波数〔Hz〕
N :パルス数 三相全波整流の場合は、6

(2) リップル含有率の計算式
計算に先だち、L〔H〕および C〔μF〕の値を決めます。

リップル含有率 = $ \displaystyle \frac{ 出力_{高調波分} }{ 出力_{直流分} } = \frac{ 入力_{高調波分} }{ 入力_{直流分}} \times \displaystyle \frac{ R_{S} + R_{L} }{ R_{L} \sqrt{ \Bigl( 1+ \omega^2 L \cdot C + \displaystyle \frac{ R_{S} }{ R_{L} } \Bigr)^2 + \Bigl( \displaystyle \frac{ \omega L }{ R_{L} } + \omega C \cdot R_{S} \Bigr)^2 }} \ \times 100 \ 〔%〕$

ω :2 π × 交流電源周波数〔Hz〕
RS :電源側インピーダンスおよびダイオードの順方向抵抗〔Ω〕
RL :負荷抵抗
リップル含有率の計算

(3) コンデンサ・インプット形整流回路リップル含有率早見表
手計算が面倒なので早見表を利用する場合もあります。
コンデンサ・インプット形リップル含有率早見表

(4) チョーク・インプット整流器のリップル含有率早見表
手計算が面倒なので早見表を利用する場合もあります。
チョーク・インプット形リップル含有率早見表

直流出力電圧の値を確認する

(1) O.H.Shade のグラフ
アメリカ RCA 社の O.H.Shade が作成した整流回路の出力を求める図表で 1943 年に作成している。半導体のダイオード素子もパソコンもない
時代に図表を作成しているが、回路シミュレータで計算してもほぼ同じ結果がでます。
O.H.Shade のグラフ

各種回路シミュレータ

整流回路内に DC リアクトル(チョーク・コイル)があると計算が難しく、電卓片手に手計算できるレベルではありません。
直流電圧計算やリップル含有率の計算は、回路シミュレータを利用する方が効率的に設計作業ができます。

(1) LTspice XVII シミュレータ
LTspice は三相半波整流回路のシミュレーションはできるが、三相全波整流回路のシミュレーションモードがないようです(?)。
LTspice XVII を使って、単相全波整流回路のシュミレーションを行ってみました。
icon コンデンサ・インプット形整流回路出力電圧とチョーク・インプット形整流回路出力電圧の比較
シュミレーション(インバータユニット)
シュミレーション(LTspice XVII)

(2) PSIM フリーソフト版を使って整流回路のシミュレーションをする
PMIS シュミレーション・ソフト(無料版)は、三相全波整流回路のシミュレーション機能があります。
この機能を使ってインバーター電流の「うさぎの耳」の発生を確認してみました。 icon 「うさぎの耳」のシミュレーションの結果
うさぎの耳

フリーソフト版は、時間軸のプロット数が最大 6000 点(時間軸: 0.06 秒)という短時間でしか、シミュレーションできません。
整流回路内に チョークコイルがあると、LCR 発振が発生し直流電圧が安定するのに 0.3 秒ほど必要です。
このため チョーク・インプット形平滑回路のシミュレーションには使えないようです。

整流回路用変圧器の容量

制御の分野で見かける主な整流回路方式

整流回路用変圧器の容量は、直流負荷容量と同じではないので注意が必要です。

直流電圧 Edc〔V〕
直流電圧 Edc は、整流用変圧器 2 次側の交流電圧(実効値:Vrms )に対する割合です。三相全波整流回路の直流電圧 Edc が高いのは、
交流 1 サイクル内の波形のピークが 6 パルスあるためです。
変圧器容量〔VA〕
変圧器容量は直流負荷容量〔W〕に対して必要な変圧器容量〔VA〕です。単相半波整流回路用変圧器の場合は、直流負荷電力に比べて
約 3.5 倍の変圧器容量〔VA〕が必要で効率が悪いのであまり使用しません。
【整流回路の種類と変圧器容量】
整流回路の種類 回路図 直流電圧
Edc〔V〕
変圧器電流〔A〕 変圧器容量〔VA〕
1 次 2 次 1 次 2 次
単相半波整流回路
0.45Vrms --- --- 3.489 Edc Idc 3.489 Edc Idc
単相全波整流回路
0.90Vrms Id Id 1.11 Edc Idc 1.11 Edc Idc
三相半波整流回路
1.17Vrms 0.471 Id 0.577 Id 1.21 Edc Idc 1.48 Edc Idc
三相全波整流回路
1.35Vrms 0.816 Id 0.816 Id 1.05 Edc Idc 1.05 Edc Idc

単相半波整流回路用変圧器容量の計算

単相半波整流回路の直流電圧
直流電圧(平均値)$ \ 〔V〕= \displaystyle \frac{ \sqrt{ 2 } }{ \pi } \times 交流電圧実効値 \ V_{res} = \ $ 0.45 × 交流電圧実効値 Vres
テスタ(回路計)を使って電圧測定するとき、直流電圧は「平均値表示」、交流電圧は「実効値表示」のため、上記のような計算式になる。
単相半波整流回路の変圧器容量
$ 変圧器容量 \ S \ 〔VA〕 = \sqrt{ 2 } \times \Bigl( \displaystyle \frac{ \pi }{ 2 } \times \displaystyle \frac{ \pi }{ 2 } \Bigr) \times E_{dc} \cdot I_{dc} = 3.489 $
変圧器容量計算式が、交流波形最大値 Em の波形値 π/2 と交流電流最大値 Im の波形値 π/2 の積なのかわかりません。
直流負荷容量の 3.5 倍以上の変圧器容量が必要になりコストパーフォーマンスが悪く、単相半波整流回路は制御の分野には不向きです。

単相全波整流回路用変圧器容量の計算

単相全波整流回路の直流電圧
直流電圧(平均値) $ \ 〔V〕= \displaystyle \frac{ 2 \sqrt{ 2 } }{ \pi } \times 交流電圧実効値 \ V_{rms} = \ $ 0.90 × 交流電圧実効値 Vrms
単相全波整流回路の変圧器容量
変圧器容量 $ \ S \ 〔VA〕 = \displaystyle \frac{ 交流実効値 \ V_{rms} \times 交流電流実効値 \ I_{rms}}{ 直流電圧平均値 \ E_{dc} \times 直流電流平均値 \ I_{dc}} = \displaystyle \frac{ 2\sqrt{ 2 } }{ \pi } = \displaystyle \frac{ 1 }{ 0.9 } = 1.11 $
計算上では、直流負荷容量の 1.11 倍以上の変圧器容量が必要になります。

三相半波整流回路用変圧器容量の計算

三相半波整流回路の直流電圧
直流電圧平均値 Edc〔V〕$ = \displaystyle \frac{ 3 \times \sqrt{ 3 } \times \sqrt{ 2 }}{ 2 \pi } \times V_{rms} = \ $ 1.17 × 交流電圧実効値 Vrms
三相半波整流回路の変圧器容量
三相半波整流回路用変圧器は、1 次巻線電流と 2 次巻線電流の大きさが異なるので、1 次巻線の電源容量と 2 次巻線の電源容量が違います。
三相半波整流用変圧器の 1 次側容量の計算
1 サイクル(2π)のうち 2π/3 は 2 Idc/3 の電流が流れ、4π/3 は Idc/3 の電流が流れる。変圧器の 1 次 2 次巻線比を a とすると、
$ (a \cdot I_{1} )^2 \times 2 \pi = \Bigl( \displaystyle \frac{ 2 }{ 3 } I_{dc} \Bigr)^2 \times \displaystyle \frac{ 2 }{ 3 } \pi + \Bigl( \displaystyle \frac{ I_{dc} }{ 3 } \Bigr)^2 \times \displaystyle \frac{ 4 }{ 3 } \pi $

1 次電流 I1〔A〕$ = \sqrt{ \displaystyle \frac{ 6 }{ 27 } } \times \displaystyle \frac{ I_{dc} }{ a } = \displaystyle \frac{ 0.471 \ I_{dc} }{ a } $
三相半波整流回路用変圧器の 1 次側容量〔VA〕 $ = \displaystyle \frac{ 3 \times V_{1} \cdot I_{1} }{ E_{dc} \cdot I_{dc} } $ $ = \displaystyle \frac{ 3 \times \displaystyle \frac{ a \times E_{dc} }{ 1.17 } \times \displaystyle \frac{ 0.471 \ I_{dc} }{ a } }{ E_{dc} \cdot I_{dc} } $ $ = 1.21 $

変圧器の 1 次側容量は直流負荷容量の 1.21 倍以上の変圧器容量が必要になります。
三相半波整流用変圧器の 2 次側容量の計算
変圧器の 2 次側電流は、1 サイクルのうち 2π/3 の間だけ Idc が流れる。
$ I_{2}^2 \times 2 \pi = I_{dc}^2 \times \displaystyle \frac{ 2 \pi }{ 3 } $
2 次電流 I2〔A〕$ I_{2} = \displaystyle \frac{ I_{dc} }{ \sqrt{ 3 } } = 0.577 I_{dc} $
三相半波整流回路用変圧器の 2 次側容量〔VA〕 $ = \displaystyle \frac{ 3 \times V_{2} \cdot I_{2} }{ E_{dc} \cdot I_{dc} } $ $ = \displaystyle \frac{ 3 \times \displaystyle \frac{ a \times E_{dc} }{ 1.17 } \times \displaystyle \frac{ 0.577 \ I_{dc} }{ a } }{ E_{dc} \cdot I_{dc} } $ $ = 1.48 $

変圧器の 2 次側容量は直流負荷容量の 1.48 倍以上の変圧器容量が必要になります。

三相全波整流回路用変圧器容量の計算

三相全波整流回路の直流電圧
直流電圧平均値 Edc〔V〕$ = \displaystyle \frac{ 3 \times \sqrt{ 2 } }{ \pi } \times V_{rms} = \ $ 1.35 × 交流電圧実効値 Vrms
三相半波整流回路の電圧波形と比較して、三相全波整流回路の電圧波形のリップル率が小さくなっているので直流平均値の値が大きくなっている。
三相全波整流回路の変圧器容量
I22 × 2π= Idc2 ×  2π 
3
× 2

I2〔A〕=$ \sqrt{ \displaystyle \frac{ 2 }{ 3 } } \times I_{dc} $= 0.816 Idc

三相全波整流回路用変圧器の容量〔VA〕= $ \displaystyle \frac{ \sqrt{ 3 } \times \displaystyle \frac{ E_{dc} }{ 1.35 } \times 0.816 \ I_{dc} }{ E_{dc} \cdot I_{dc} } $ = 1.05

変圧器の容量は直流負荷容量の 1.05 倍以上の変圧器容量が必要になります。

インバーター駆動モータのトルクを考える

(1) インバータユニットに DC リアクトルを取り付けるとモータートルクが低下する
DC リアクトルを取り付けると高調波を抑制できるメリットがあるが、インバーターユニット内の直流電圧が低下するに伴いインバーター出力電圧も
低下します。
インバーターユニット

(2) DC リアクトルによる直流電圧低下値の推測
半波整流回路( 1 パルス)の直流電圧値から三相全波整流の直流電圧を推測してみます。整流後の直流電圧は、整流パルス数に無関係に一定で、三相
全波整流のリップル含有率は、単相半波整流リップル含有率の約 1/3 の大きさです。以上のことから三相全波整流回路に 3mH リアクトルを付けた
場合、直流電圧は 約 234V が予想できます。234V の直流電圧を交流変換すると、234V ÷ √2 ≒ 165V に相当します。
モーター出力トルクに換算すると、(165V ÷ 200V)2 ≒ 68.4 %となります。この値はあくまでもシミュレーションの値で実際と異なると思うが、
DC リアクトルを取り付けると直流電圧か低下することは間違いないと思います。
インバーター出力電圧

投稿日 2018/12/31 (Mon.)
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