電動機の保護は、配線用遮断器と電磁開閉器の組み合わせで行います。
耐熱温度が 60〔℃〕の IV 線や 90〔℃〕の CV ケーブルの焼損保護を目的とした配線用遮断器が、耐熱クラス E 種( 120 ℃)や B 種( 130 ℃)の
エナメル線保護が容易にできることは想像できます。適切な保護協調ができていれば、熱容量が大きな電動機が過電流で焼損することは少ないと
思います。しかし、実務では電動機の焼損事故は発生しています。50 年に渡る電気屋人生で強く印象に残った電動機の焼損事故が 4 つあります。

• 電動機口出線の絶縁物の炭化事故
• サーマルリレーで保護できなかった焼損事故
• 巻線形誘導電動機の異常加熱
• 直流電動機の整流子焼損事故があり、これらを紹介します。

電動機の耐熱クラスとケーブルおよび絶縁処理

(1) 三相誘導電動機の拘束時の巻線温度
三相誘導電動機の拘束時には始動電流と同程度の電流が流れ、サーマルリレーの「コールドスタート特性」で事故電流を遮断できます。
定格電流で運転中の誘導電動機の巻線温度は、耐熱クラス程度まで温度上昇し外郭および口出線も温度上昇します。

電動機の電源ケーブルは、耐熱温度が高い CV ケーブルもしくは CVT ケーブルをので問題はありません。
しかし、絶縁処理テープに塩ビ系のビニルテープを使い、熱でビニルテープが炭化し絶縁不良になる事故は 2 ~ 3 回遭遇しています。
電動機の耐熱クラスと絶縁テープのミスマッチングには注意したいですね。

【電動機の配線材料例】
電動機の
耐熱クラス
配線材料
絶縁電線 許容温度
〔℃〕
ケーブル 許容温度
〔℃〕
接続絶縁用テープ 許容温度
〔℃〕
 
E
 
B
• ビニル絶縁電線
• ゴム絶縁電線
• 2 種ビニル電線
• ポリエチレン絶縁電線
• エチレンプロピレンゴム絶縁電線
• 架橋ポリエチレン絶縁電線
60
60
75
75
80
90
• ビニルケーブル
• 天然ゴムケーブル
• ポリエチレンケーブル
• ブチルゴムケーブル
•  EP ゴムケーブル
• 架橋ポリエチレンケーブル
60
60
75
75
80
90
• ビニル粘着テープ
 
 
• 自己融着ブチルゴムケーブル
 
• ポリエステル粘着テープ
60
 
 
80
 
120
F • 架橋ポリエチレン絶縁電線
• けい素ゴム絶縁ガラス編組電線
90
180
• 架橋ポリエチレンケーブル
• けい素ゴムケーブル
90
180
• ポリエステル粘着テープ
• シリコンガラス粘着テープ
120
180

サーマルリレーで保護できなかった焼損事故

(1) 焼損事故の概要
高温の排ガスを送風する設備で排ガス温度がシャフトを伝って電動機巻線を加熱させた。
電動機は定格電流近くで運転中のためサーマルリレーは動作していないが、電動機自体も温度が高かった。
このような設備は水冷軸受を使うのが一般的でが、通常の軸受であった。たぶん、長時間をかけて巻線が焼損したものと思われる。
外付けの電流計のみを信用するのでなく、手で触っての外郭温度・振動を見ていれば防げた事故です。
排気ファン

(2) 手で触れた時の温度の感じ方
手で物に触れた時の温度の感じ方には、一般的にその人の過去の経験からくる先入観に影響されている場合が多く、その為に多少の差がある。
したがって、厳密な温度値を知るにはさまざまな器具の使用によって工学的に測定されなければならないが、簡易的に人間の手による温度測定を
下記に示す。感覚をひとつの目安として使用する。 【出典:機械が受ける外乱障害ガイドブックより抜粋】

温度℃ 感じ 具体的な感覚程度
30 やや冷たい
35 冷たくも暖かくもない 体温より低いのでやや冷たく感じる。
40 やや暖かい 手に暖かみを感ずる程度。
45 暖かい ポカポカと手に暖かみを感ずる。
50 やや熱い じっと触れていられるが手の平が赤くなる。
55 熱い しばらくなら触れていられる。
60 大分熱い 熱いけれども何とか触れていられる。
65 非常に熱い 数秒なら触れていられるがあとで手の平に熱さがジーンと残る。
70 指一本位なら数秒触れていられる。
75 指一本でも数秒は触れていられない。手の平ならちょっと触れてもヒリヒリする。
80 手の平では触れられない。指一本でも数秒も触れていられない。
85 非常に熱い 触れた瞬間反射的に手が放れる。

スーパー・シンクロナスセルビュース電動機のゲルゲス現象

(1) 昭和 40 年代の電動機速度制御
高圧で大容量のインバータユニットがない時代は、巻線形電動機の 2 次側にすべり周波数の電圧を印加して電動機の速度制御をしていた。
今のインバーターユニットのように ①正転力行運転。②正転回生運転。③逆転力行運転。④逆転回生運転ができるシステムです。
セリビウスモータ

(2) ゲルゲス現象の速度トルク特性
始動中であれば「すべり」0.5 の速度で回転速度が上昇せず定常運転となり過電流が流れる。
運転中にゲルゲス現象が発生すると ①電動機電流が大きくハンチングする。
②トルク特性が低下する。 🡺 速度が低下する。 🡺 速度上昇指令が出続ける。 🡺 巻線温度上昇 … となる。

高圧大容量電動機は、固定子巻線に温度計を挿入して直接巻線温度を測定するものが多い。(サーマルリレーは保護の信頼度が低い。)
速度トルク特性

直流電動機の焼損事故

(1) 昔は電動機の速度変更をする場合は直流電動機を使っていた。
回転子の磁束と整流器のカーボンブラシの機械的な位置が狂うとカーボンブラシと整流子の間で火花(アーク)がでる。
更に条件が悪くなるとがアークが長くなる。一定の長さ以上になるとカーボンブラシでないところでも整流子間にアークが発生し、
一瞬にして整流子が焼損する。

投稿日 2020/09/27 (Sun.)
更新日  
 

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